春の朝、目を覚ますと、窓の外はもう桜色。
「今日だけは、遅刻してもいいかな」と、
枕元で、時計の針が静かに同意する。
通学路は、まるで別世界。
桜のトンネルを抜けるたび、
心の中に小さな春が咲く。
「こんな日は、詩でも書こうか」と、
空が青すぎて、思わず呟く。
授業中、窓の外には桜が揺れている。
先生の声よりも、花びらが誘う声の方が大きい。
ノートには数式よりも、花びらのスケッチが増えていく。
「春は、不意にやってくる」と、
教科書の隅に、ひそかに書き込む。
放課後、桜の下で友達と語らう。
「来年もここで会おう」と約束するけれど、
言葉よりも、心が先に答える。
桜の木の下、時間はゆっくりと流れ、
「この瞬間を、どうやって忘れよう」と、
空を見上げながら、心の中でつぶやく。
帰り道、桜の花びらが靴にくっついてくる。
「君も家に来る?」と話しかけると、
花びらは、まるでうなずくように舞い上がる。
部屋に着くと、ひとつの花びらが手帳に落ちる。
「今日のこと、忘れないように」と、
そのページをゆっくりと閉じる。
夜、部屋の窓から桜を見る。
「また明日」と、桜がささやく。
春の夜は短いけれど、
この季節の魔法は、何度でも、
心の中で咲き誇る。